A.
親切というもの 十一月も終わりに近づいたある日のこと—。 もうすっかり暗くなった道を、わたしが家へと急いでいた時のことでした。 ちょうど曲がりかどまで来た時、バスの停留所に、さも寒そうに、首をすくめて立ってい る女の人を見つけ、58おやっと思いました。バスは、道路工事のために、K高校の前と、S中学校の前で折り返し運転をしているはずだからです。知らない人だなと思っただけで、停留所に立っている女の人の前を通り過ぎました。 59( )、わたしの後ろで、 [バスに乗るのですか。ここはバスが通りませんよ。」 と言っている声がしました。振り返って見ると、停留所にいた女の人は、とてもありがたそうに、 「そうですか。どうもありがとうございました。」 と言って60おじぎをしていました。それから、教えてあげた人は、ただバスが通らないということだけでなく、バスが通る停留所まで教えていました。 わたしは、停留所で、このような親切を見て、帰り道を歩きながら、考えました。 あの時、バスがあの停留所までこないということをわたしは61知りながら通り過ぎてしまったのですUもし、あの親切な大がいなかったら、女の人は寒い風の吹く暗い停留所で、バスの来るのを、いつまでも待っていたかもしれません。親切も、勇気がなくては、生かせないと思います。62そう思うと、わたしはノぐスの通らないということを教えてあげられなか-。たことをとてもはずかしく思いました。 たとえ、わたしに教えてあげようとする気持ちがあったとしても、勇気がないので、そのままにしていたでしょう。 そう思うと、63あの時、ていねいに教えてあげていた人が、とても親切で勇気のある人に思いました。