鉄道の線路の上に小石が置かれるという事件が続いたことがある。 線路への置石と聞けば、子供のいたずらかと誰もが考えるだろう。ところが、「カラスが石をくわえて、線路の上に載せているところを撮った」という人が現れた。警察の捜査員も張り込み中にその現場を目撃し、ビデオに撮影した。その様子が何枚かの写真となって新聞に掲載された。 こうして、線路への置き石事件は「カラスの犯行」と断定された。しかし、カラスの犯行 1 巧妙すぎる。丸い石は 2 やすく、線路のレールの上にうまく載せるにはかなりの努力と根気がいる。そんなことがカラスにできるのか。だれもが疑わずにはいられないだろう。そんな人間の疑いを一掃するようなカラスの賢さを示す出来事が、最近次々と報告されている。走っている車を利用してくるみを割るカラスの姿がテレビで 3 。カラスは道路にくるみを置いて、道路のわきで車が通るのを待つ。そして車が通った後、割れたくるみの中からその実を拾いにやってくる。反対車線を車が猛スピードで通り過ぎるのも構わず、カラスは同じ行動を繰り返していた。 新聞にも面白い下着泥棒の記事が出ていた。ある女性が洗濯した下着を窓の外に干しておくと、針金のハンガーだけが 4 なくなり、下着のいくつか下に落ちている。なぜ下着泥棒はハンガーを持っていくのか。しばらくしてその真相がわかった。カラスが近所の木の上に巣を作っていたのだ。針金のハンガーを使って鉄筋入りの住宅を作り、内側に 5 物を敷いて住みやすくしていたというのだから驚く。 こんな話を聞くと、カラスが線路へ石を置くのも信じられないことではないと思われてくる。 最近都市部でカラスが異常に増えているという。都市鳥研究会の報告によると、都内の中心部だけで2万 6 以上が生息しており、 10 年前の倍になったそうだ。 カラスは公園や墓地をねぐらにし、繁華街や住宅街のゴミをあさる。人間が出すゴミの 7 カラスは異常に繁殖したらしい。線路に石を置いたり、ゴミ箱をあさって通りをゴミだらけにしたり、急降下して子供を脅かしたりと、増えすぎたカラスは人間を悩ませている。カラスの勝手気ままな行動に頭を悩ませているのは人間だけではない。このごろはツバメもカラスの攻撃を恐れ、表通りに作っていた巣を、店のひさしの内側や外壁の裏側など見えにくい場所へ移しているという。人間に慣れたカラス 8 身を守って生き抜くためのツバメの自衛手段なのだろう。 何かにつけマイナスイメージの先行するカラスだが、そんなカラスに公園で毎日のようにえさをやるおじさんたちがいる。ハトやカモは別の人がえさをやり始めると移動してしまうが、カラスは裏切らない、浮気をしないという。餌をやる人の顔を覚えているのだ。カラスは鋭い観察眼を持ち、 9 代わりに、いったん信じると「義理」を大切にする。カラスおじさんたちが語るカラスの魅力は、「 10 」なのだそうだ。会社を退職したあるカラスおじさんは「カラスは憎まれて人気がなくても実はけっこう誠実な部下、そんな感じだね」と、カラスにサラリーマン人生を映して言う。 「鳥の世界の人間」といわれるほど利口なばかりに疎まれることの多いカラスだが、私たちは、そんなカラスに人間の姿を重ねて見ているのかもしれない。